研究概要 |
大うつ病を含むストレス性精神障害の発症機序には、慢性ストレスによる情報伝達系の障害に起因した神経細胞の変性が、密接に関与していると推測されている。本研究では、セロトニン神経機能などの神経細胞の機能維持や発芽に関連し、ストレスによって発現の低下するbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)を介した情報伝達系の障害が、本障害発症に深く関与しているという仮説を証明する目的で、ラット大脳皮質前頭部・海馬で、1)慢性variable stress(VS)のBDNF,trkB発現やmitogen activated protein(MAP)kinase活性(リン酸化)に及す影響、2)新生児期ストレスによる成熟後ストレス脆弱性形成とBDNF情報伝達系の関連、3)抗うつ作用を有するcAMP系刺激薬とBDNF情報伝達系の関連、を検討した。次のような、結果を得た。1)慢性VS負荷ではBDNF,trkB mRNA発現の有意な低下やストレス終了直後のMAP kinase活性の有意な亢進をみたが、ストレス終了1,3時間後でのMAP kinase活性に変化はみられなかった。2)新生児期ストレス負荷+成熟期ストレス負荷群と、成熟期ストレス負荷群との間で、BDNF mRNA発現低下の程度に有意な差はみられなかった。3)抗うつ薬投与によって、有意なMAP kinase活性の亢進がみられた。4)Phospdiesterase IV(PDE4)阻害薬と抗うつ薬併用投与やwater-solbule forskolin derivativeであるNKH477投与によって、抗うつ薬単独投与と比較して早期に有意なBDNF,trkB mRNA発現の亢進がみられた。5)PDE4阻害薬と抗うつ薬併用及びNKH477投与で、有意なMAP kinase活性亢進がみられた。この結果は、本障害の発症・治癒メカニズムに、BDNF→trkB→MAP kinaseという情報伝達系を介した細胞機能変化が、深く関わっていることを明らかとした所見と思われる。
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