これまでの研究により、全盲者の中でも社会的同調因子がはっきりしている者は、メラトニン等の内因性のリズムはFree-runしているのに、睡眠・覚醒リズムは24時間に同期させていると考えられる。そこで、全盲者がどの程度睡眠・覚醒スケジュールを訴えているか、睡眠調査を行った。さらに、睡眠・覚醒スケジュール障害と診断された全盲者に対して、ビタミンB_<12>を投与した。 同一施設に入所中である全盲者84名と、全盲でない視覚障害者132名に対して、睡眠状態を調査した。その結果、両群における睡眠・覚醒スケジュール障害の疑いがある者の頻度には、差は認められなかった。その理由として、両群とも同一施設に入所しているため、同じ社会的同調因子の影響を受けていたためと考えられた。しかし、全盲者のほうが入眠時間が長く、起床時間が遅かった。このことは、全盲者は自覚的訴えはなくても、睡眠の質、量などが悪いことを意味していると思われた。 上記の調査で、不規則な睡眠覚醒パターンと診断された全盲者に対して、ビタミンB_<12>を投与し、その前後の一日の総睡眠時間、一日の睡眠・覚醒回数、入眠時刻を調査した。その結果、ビタミンB_<12>を投与により有意な睡眠時間の延長、睡眠・覚醒回数の減少、入眠時間の後退が認められ、睡眠・覚醒パターンが明らかに改善した。さらに、投与前後に測定したメラトニンリズムは、投与前には一日中10pg/ml以下で平坦あったが、投与後には夜間分泌量が増加し、やや周期性が出てきた。これらの結果より、ビタミンB_<12>投与により、睡眠・覚醒リズムが安定し、そのリズムの同調に引きずられ、メラトニンリズムが、出てきたのかもしれない。しかし、臨床症状が安定してからのメラトニンは測定していないし、メラトニンの分泌量が増加したと言っても、8pg/ml程度であり、今後の更なる検討が必要である。
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