本研究は、三環系抗うつ薬(クロミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン)およびその代謝物血中濃度に関するデータ収集とその解析、これらの薬物代謝に関与する酵素の遺伝子レベルでの解析を行って、難治性うつ病の生物学的要因を探索し、新たな薬物治療ストラテジーを開発することを目的としている。 平成7年度のデータ収集を含めて、これまでにクロミプラミンの血漿サンプルは108名に達し、その分析から、水酸化代謝物のグルクロン酸抱合体には非抱合体に比べて約2〜3倍の高濃度で血中に存在していること、抱合率には大きな個体差が認められること、ベンゾジアゼピン系薬物の併用が抱合率を有意に低下させ、女性は男性に比べて抱合率がやや低い傾向が明らかにされた。また、臨床データの得られた大うつ病患者は65名に達し、クロミプラミンの脱メチル化が低いほど臨床効果が得られやすいことが確認された。 またアミトリプチリンの血漿サンプルは73名に達し、その水酸化代謝と脱メチル化代謝には、それぞれ8倍、19倍もの大きな個体差が認められた。しかしいずれの代謝経路においても代謝不全者の存在は確認されなかった。大うつ病患者47名を対象とした分析の結果、アミトリプチリンおよびその脱メチル化・水酸化代謝物の血中濃度測定によって、約70%の患者で、その後の臨床改善度を正しく予測できるという所見が得られた。 尚、上記の所見については、日本精神神経学会、日本臨床精神神経薬理学会での学会発表、および論文発表を行った。 酵素の遺伝子型決定のためのサンプル収集も順調で、現在までに20近いサンプルが得られており、今後も引き続きサンプル収集と遺伝子型解析を行う予定である。
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