本研究は、三環系抗うつ薬とその代謝物血中濃度に関するデータ収集とその解析、これらの薬物代謝に関与する酵素の遺伝子レベルでの解析を行って、難治性うつ病の生物学的要因を探索し、新たな治療戦略を開発することを目的としている。クロミプラトン(C)で治療されている日本人精神疾患患者108名でCの代謝の個体差について検討し、日本人におけるCの脱メチル化能、水酸化能、抱合能の個体差は各々、36、14、28倍と算出された。このデータをもとにCで治療中の気分障害57名での薬物血中濃度と臨床効果について検討したところ、79%の割合で臨床効果の予測が可能であった。ノルトリプチリン(NT)の水酸化にはCYP2D6が関与しているが、NTにて治療中の患者31名におけるNTおよびその代謝物血中濃度とCYP2D6の変異遺伝子であるCYP2D6Chとの関係について検討した。体重当たり投与量で補正した各個体の平均NT血漿中濃度は、Wt/Wt群=267±128nM/mg/kgBW、Wt/Ch=326.3±61.1nM/mg/kgBW、Ch/Ch群=488.6±103.8nM/mg/kgBW、Ch/L_1=221.8nM/mg/kgBW、Wt/L_1群=260.3±81.7nM/mg/kgBWであり、Wt/Wt群と比較してCh/Ch群は約1.8倍高い値を示した(p=0.0096)。NTの水酸化率(nortriptyline/trans-10-hydroxynortriptyline)の各群での平均値はWt/Wt群=0.89±0.29、Wt/Ch=1.11±0.30、Ch/Ch群=2.97±0.83、Ch/L_1=0.75、Wt/L_1群=1.05±0.31であり、Wt/Wt群と比較してCh/Ch群は約3.4倍高い値を示した(p=0.006)。このことからCYP2D6Chの存在がNTの水酸化を著名に低下させることがわかった。
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