拒食調節機構は一般に、脳内のcentral feeding systemと末梢腸管を主としたperipheral satiety systemから構成され、摂食後腸管の拡張刺激やcholecystokinin (CCK)、 pancretic polypeptide (PP)、 poptide YY (PYY)をはじめとする消化管ホルモンからなる満腹シグナルが脳に伝えられる。 過食症、拒食症はこういった空腹及び満腹システムの両者の異常が推測されているが、そのメカニズムは必ずしも明らかでない。また満腹システムを形成する末梢側腹管因子の機能異常や病態における意義に関しても不明である。 そこで本研究は、摂食障害の満腹システムの異常を解析し、精神科的治療に応用することを目的とした。 本研究より、以下のことが明らかになった。 1)過食症においても、ラジオアイソトープ法で測定された胃排泄能の低下が著明であり、摂食障害にみられる消化管運動の低下は、単に栄養状態の低下によるものではないこと。 2)抑うつや不安、あるいは食行動の異常を示す、SDS、 CAS、 EATといった心理検査との相関からは、情動ストレスが消化管運動に強い影響を及ぼす可能性を強いこと。 3)拒食症と拒食症+過食症の症例を比較すると、試験食摂取後のCCRやPPといった満腹ホルモンの分泌反応は、拒食症例では高値を示すが、過食症を合併する例では低下を示すこと。すなわち、満腹レベルの低下が示唆され、binge eatingに関与している可能性があること。 4)拒食症に経静脈糖負荷(輸液)を行うと、約20%に反応性低血糖(40mg/dl以下)が認められる。インスリンの感受性及びグルカゴン分泌が問題であり、臨床的に留意する必要があること。 などであり、今後、更に研究を進めてゆきたい。
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