研究概要 |
AD脳には、40個前後のアミロイドβ蛋白(Aβ)の沈着による特有の組織病変がみられる。Aβは700個前後のアミノ酸からなる膜蛋白であるアミロイドの前駆体蛋白(APP)が分解をうけて生成されることが知られている。この前駆体蛋白がどの様な場合に、どこで、どの様な機構により処理をうけ43個のAβが形成され沈着するのかという問題は依然解決されていない重要な課題である。この問題の解決には、蛋白の細胞内輸送とAPPの分解処理過程を明らかにする必要がある。本年度は以下の検討を行った。 1)clathrin,adaptor proteinに対する抗体の樹立:clathrin,adaptor protein(AP-1,AP-2,AP-3)は、それぞれアミノ酸配列が明らかにされている。そのうち特徴のあるドメインを合成して、その合成ペプチドに対するポリクローナル抗体の作成を試みた。clathrinやAPにたいする抗体は、ELISAでは抗体価は高いものの免疫染色ではsensitivityが優れていないため再度試みている。 2)培養細胞におけるLys系関連経路とAPP分解過程に関する生化学的研究:HUT78(T細胞系)、U937(モノサイト系)を培養して細胞の画分を得る。Golgi分画、ミクロゾーム分画をさらに密度勾配法によりLys、輸送小胞を分ける。この各分画の蛋白を可溶化してウエスタンブロッティングを行い、APP断片の性質を明らかにした。これまで知られていたamyloidogenicなAPP断片50kDa,20kDaの他にRIを用いることにより6-5kDaさらに4-3kDaのAβに極めて近い断片の検出が可能となった。 3)培養細胞におけるLys系関連経路とAPP分解過程に対するロイペプシン、クロロキンの影響:ロイペプシン、クロロキンを加えて細胞を培養したのち、画分を得て同様にウエスタンブロッティングを行いAPP断片、特に10kDa以下の断片の増減を調べた。 現在までに得られた所見から、Lys経路はAPPの輸送システムとして重要でありAβの形成に関係が深そうであること、いくつかの細胞内輸送経路と標的地(細胞小器官)があり異なった処理機構が働いていることを示唆すると考えられる。
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