研究概要 |
目的)アルツハイマー病(AD)の極く早期を臨床的にとらえることは困難である。一方アポ蛋白E(apoE)-ε4 alleleはADの危険因子であるが、ε4単独ではAD発症の必要十分条件とは言えない。我々は高齢者でうつ症状を主訴とし明確な記名力障害を示さない症例でのapoE遺伝子頻度を求め、高齢者うつ状態がADの早期の症状か否かについて検討した。 対象・方法)対象は神経内科および心療内科を受診する高齢者のうつ、不安、身体不定愁訴を主訴とし神経所見を認めない患者64人。疾患分類はDSMIVおよびICD-10に従いうつ型、不安神経症型、身体異常型、睡眠障害型などのサブグループに分類した。うつ状態に関してはhamilton Rating Scaleを用い、知的機能に関しては長谷川式簡易知的機能評価スケールを用いた。対照は一般内科受診者で痴呆や神経疾患を持たない1,386人。apoE表現型は等電点電気泳動法によった。 結果)1)対照ではε4を少なくとも1つ持つ頻度は18%であった(N=1,386)。 2)DSM-IVで分類されるmood disorder (N=13)では7例(53.8%)が少なくとも1つε4を持ち有意に高頻度であった。しかし、anxiety disorder (N=5)では26.7%、somatoform disorder(N=k20)では20.0%であり、対照との間に差はなかった。sleep disorder(N=2), dissociated disorder (N=3), personality disorder (N=1)は調査数が少ないが、ε4の頻度は高くなかった。 ICD-10で分類しても、F3(気分、感情障害:N=11)では54.5%が少なくとも1つε4を持ち、有意に高頻度であったのに対し、F4(身体表現性障害:N=42)では21.4%と対照との間に差はなかった。 考察)以上より、高齢者の精神症状のうち、うつ状態を中心とする感情障害では、身体症状を中心に訴える群に比してのε4の遺伝子頻度が高く、ADの初発症状の可能性であり注意深い観察が必要である。
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