依存性薬物の精神依存能と、これに伴う精神毒性の発現にかかわる神経学的機序を検討する目的で、幻覚・妄想などの精神毒性を発現させる覚醒剤(メタンフェタミン:MAP)と、精神毒性を発現させないニコチン(NCT)について比較検討した。まず、平成7年度の研究に引き続いて、ラットを用いて、精神依存の動物モデルである条件性場所選択(CPP)事態で、強化効果発現に関与するとされる脳内報酬系のMAPとNCTによるCPP形成における関与を検討したところ、いずれの薬物においても側坐核の関与が示されたが、内側前頭前野の関与はNCTにおいてのみ認められた。さらに、オペラント事態による薬物弁別実験で、CPP形成用量に近い用量を用いて、MAPと生理食塩水(SAL)の弁別を形成させたラットではNCTによる般化テストを、NCTとSALの弁別を形成させたラットではMAPによる般化テストを行ったところ、いずれの場合も般化は認められなかった。このことから、強化効果を発現させる用量での弁別刺激効果は、MAPとNCTでは異なっていることが示された。 一方、MAPとNCTの精神毒性を検索するために、依存性薬物の精神毒性の動物モデルとされる自発運動量増加の増強(増感現象)における側坐核のドパミン(DA)の変化を脳透析法によって検討した。この結果、単回投与時には側坐核のDAに対して、MAPは増加効果を、NCTは増加傾向を示した。増感現象形成群では、MAPの効果に減弱が、NCTの効果に増強が認められた。 以上のことから、MAPとNCTの強化効果発現には、脳内報酬系が関与していることが示された。しかし、同経路における作用部位や作用様式の差異が、両薬物の強化効果や精神毒性にみられる相違に関係している可能性が考えられた。
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