正常ラット脳の各部位(前頭葉皮質、頭頂葉・後頭葉皮質、前脳部辺縁領域-中核、側座核、嗅結節等を含む-、線状体、海馬、小脳、脊髄)の^1HNMRスペクトルをBruker社製400MHz高分解能NMR装置を用いて測定し、代謝産物の部位別分布を調べた。てんかんモデル動物であるキンドリングラットを扁桃核を慢性電気刺激して作製し、刺激側と反刺激側の前頭葉皮質、海馬の^1HNMRスペクトルを測定し、N-アセチルアスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、GABA等のアミノ酸やクレアチン、クレアチンリン酸、グリセロホスホリルコリン、イノシトール等の代謝物質の濃度を正常ラット脳の値と比較した。その結果、刺激側の海馬でN-アセチルアスパラギン酸やクレアチン、クレアチンリン酸、グリセロホスホリルコリン等の代謝物質の低下傾向が検出された。これは、神経細胞に代謝障害が生じている可能性を示唆する。しかしながら、マイクロウェーブ処理したラット脳の部位別標品からの過塩素酸を用いる抽出過程で脳内代謝物質の一部が分解する可能性が認められた。これは、本来の目的であるラット脳内代謝物質濃度の正常群および分裂病モデル群間での定量的な比較を妨害する要因となり得る。このため、5種類の抽出方法の特性について比較検討し、全般的な回収率の良さとホスホクレアチンの崩壊の少なさの点で、メタノール/クロロホルム法が優れていると結論した。さらに、多成分系の測定で生じる信号ピークの重なり合いを克服して正確な代謝物質信号強度の分離測定を行なうために、個々の代謝物質のモデルスペクトルを作製し試料のスペクトルに対して最小自乗法に基づき最適化することにより各成分信号の強度を決定するデータ処理法を確立した。これらの方法を用いることにより、ラット脳内代謝物質濃度の正常群および分裂病モデル群のより高精度な定量値が得られるものと期待できる。
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