研究概要 |
本年度は、膵β細胞に発現するATP感受性K^+(K_<ATP>)チャネルのcDNAを単離する目的で、ラット膵ラ氏島より作成したcDNAライブラリーを既知の内向き整流性K^+チャネルGIRKのcDNAをプローブとしてホモロジースクリーニングを行うことにより、新たな内向き整流性K^+チャネルのサブファミリーであるuK_<ATP>-1(Kir6.1)のcDNAをクローニングした(Inagaki et al.J.Biol.Chem.271:5691,1995)。さらに、ヒトuK_<ATP>-1のcDNAを単離し、ヒト遺伝子の構造と染色体上の局在を明らかにした(Inagaki et al.Genomics 30:102,1995)。uK_<ATP>-1のmRNAは膵ラ氏島を含む殆どすべての組織に発現が認められたが、膵β細胞株には発現が認められなかった。そこで、uK_<ATP>-1をプローブとしてさらにホモロジースクリーニグを行い、ヒトgenomicDNAライブラリーおよびマウスβ細胞株MIN6のcDNAライブラリーから新たな内向き整流性K^+チャネルBIR(β cell inward rectifier)(Kir6.2)のcDNAを単離した。BIRは単独で動物細胞に発現させてもチャネル活性は認められなかった。同じ頃、Aguilar-Bryanらによって、経口糖尿病薬スルホニール尿素剤の受容体(SUR)のcDNAが単離されたが、BIRとSURのmRNAは共に膵β細胞で発現が認められることから、このBIRとSURをCOS-1細胞で共発現させて機能解析を行なった。BIRとSURの共発現によって、単一チャネルコングタンス、内向き整流性、ATP感受性、スルホニール尿素剤感受性など、いずれも膵β細胞で認められるK_<ATP>チャネルの特性をすべて備えたK^+チャネル電流が認められた。したがって、膵β細胞のK_<ATP>チャネルはBIRとSURの2つのサブユニットから構成されることを初めて明らかにした(Inagaki et al.Science 270:1166,1995)。これは、これまで不明であったK_<ATP>チャネルの分子的基盤を解明した初めての研究である。
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