偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypoparathyroidism:PHP)は、副甲状腺ホルモン(PTH)に対する不応性を特徴とする疾患である。本症は、いくつかの病型に細分されるが、PHPIb型はPTH受容体自体の異常に起因するものと想定されていた。そこで、1名の健常対照、3例のPHP1b型患者の皮膚線維芽細胞のPTH受容体を、reverse transcription-coupled polymerase chain reaction(RT-PCR)、single strand conformation polymorphism(SSCP)、PCR産物のdirect sequence、Northern blot解析などにより検討した。PTH受容体の全コード領域を五つに分けたRT-PCRでは、PHP患者と健常者でPCR産物の大きさに相違はなく、またNorthern blot解析でもPTH受容体mRNAの大きさの変化は認められなかった。PCR産物のSSCP解析、direct sequenceでは、PHP患者のPTH受容体のコード領域に変異は認められなかった。一方PTH受容体mRNAの発現は、健常対照に比較し、2例のPHP1b型患者では低下していた。そこで本症患者におけるPTH受容体発現低下の機序を明らかにする目的で、PTH受容体遺伝子プロモーター領域の異常の有無を検討した。ヒトPTH受容体遺伝子の5'端のクローニングにより、本遺伝子5'端には三つの非翻訳エクソンと少なくとも二つのプロモーターが存在すること、これらのプロモーターのうち一つは多くの組織で使用されているのに対し、もう一つは腎臓で特異的に使用されることが明らかとなった。一方PHP1b型患者のPTH受容体遺伝子のプロモーター領域のDNA配列は、健常対照と異ならなかった。従って、PHP1b型患者のPTH受容体発現の低下は、PTH受容体遺伝子プロモーター領域の異常に基づくものではなく、これらの領域に作用する核蛋白の量的、あるいは質的異常に起因するものである可能性が明らかとなった。
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