内因性のCaセンサーの発現がない培養細胞に、Caセンサー発現ベクターを導入した。2)導入細胞では、細胞内Ca濃度が非導入細胞に比して、有意に変動した。b)導入細胞にnCaRE配列を含むレポーター遺伝子をさらにコトランスフェクションしたところ、レポーター活性は、外液Ca濃度にかかわらず抑制された。このことは、nCaRE-nCaREBの相互作用に基づく遺伝子転写調節系にCaセンサー蛋白が情報を与えうることを示す。c)野性株と、センサーを導入したHeLa細胞の培養液中のCa濃度を0.2mM、3.0mMの2条件にし、各々から計4種の核蛋白を抽出した。そしてそれぞれの核蛋白とnCaREとの間でDNA-蛋白結合実験を行った結果、野性株からの核蛋白でみられた細胞外液Ca濃度依存的なnCaRE-nCaREBの結合活性の増加がセンサー導入細胞からの核蛋白では消失し、低Ca濃度下でも高Ca濃度下と同様の強いnCaREとnCaREBの結合が認められた。一方、転写因子nCaREBを構成する2つの蛋白ref1とKu抗原の、それぞれの機能的ドメインを解明する目的で、ref1蛋白の種々の欠失蛋白を作り、別個に精製したKu抗原との結合をGSTカラムを用いて検討した。その結果、ref1蛋白のアミノ端120個までにKu抗原との結合およびnCaREBとしての機能に必要な部分があることが判明した。さらに、Ku抗原を構成する2つのサブユニット内にもref1との結合に必要なコンセンサス配列を見出した。以上の結果から、細胞外液Caの変化のもたらす情報が、細胞膜を経由して核内のnCaRE-nCaREB転写調節機構に至る経路の少なくとも一部分の分子機構を解明することができた。
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