1)ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)遺伝子上に存在する負のカルシウム反応性DNA配列(nCaRE)に結合し細胞外液カルシウム(Ca)による遺伝子転写抑制を媒介する核蛋白nCaREBを同定した。nCaREBはレドックスファクター(Ref1)とKu抗原との複合体を含み、ref1蛋白のアミノ端120個までの部分にKu抗原との結合およびnCaREBとしての機能に必要な部分があることが判明した。また、Ku抗原を構成する2つのサブユニット(p70とp68)内にあるref1との結合に必要なコンセンサス配列を同定した。 2)内因性Caセンサー受容体(CaR)の発現されていない培養細胞にこのCaR発現ベクターを一過性に導入したところ、a)導入細胞で細胞内Ca濃度が有意に上昇し、b)導入細胞で、nCaREを含むレポーター遺伝子の細胞外Caによる発現抑制が増強し、これと連動して、nCaRE-nCaREBの結合もより強固となった。このことから、nCaRE-nCaREBの相互作用に基づく遺伝子転写調節系に細胞膜におけるCaRが関与しうることを示した。 3)nCaREを構成する2つのDNA配列のうちの一つが細胞外Caだけでなく、浸透圧上昇やストレッチといった細胞容量を変えるような刺激による遺伝子の転写活性化を引き起こすこと、そしてその活性化にnCaREとnCaREBとの結合が減弱することが必要であることを培養細胞の系で示した。実際にこのDNA配列はPTH遺伝子ばかりでなくバゾプレッシンや心房性ナトリウム利尿ペプチドなどの遺伝子上流に種を越えて見事に保存されていることも判明し、この仮説を支持すると考えられる。
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