研究概要 |
TTF-1はサイログロブリン,甲状腺ペルオキシダーゼ,サイロトロピン・レセプター等の甲状腺特異蛋白の遺伝子発現を司る転写因子であり、TTF-1そのものの遺伝子発現の解析は甲状腺疾患の病態生理の解明に極めて重要である。そこで、TTF-1遺伝子の転写機構を解明すべく、甲状腺より完全長のcDNAのクローニングを試みたところその最5′端は、遺伝子の-801bpに相当し、Guazzi等の報告した転写開始点より600bp上流であった。さらにこのcDNAは5′非翻訳領域にイントロンを含むことが判明した。そこで、真の転写開始点および転写産物を解析すべく、5′-rapid amplification of cDNA end (RACE)法を行ったところ、-1900bp(α-タイプ),-1000bp(β-タイプ),-500bp(γ-タイプ)を最5′端とする3種類のmRNAが存在し、βタイプはさらに5′非翻訳領域イントロンの相異により、2種類(β_1,β_2)に分類される。次に、プライマー伸長法,RNaseプロテクション法を行い、転写開始点の検討を行ったところ、いづれも-1934bp,-1001bp,-601bpを示し、やはり、TTF-1は全く異なる転写開始点を有することが示された。これら3種類のmRNAが存在することはこれらを特異的に検出するプローブを用いたNorthern blotにても確認された。 以上の結果は、TTF-1の転写開始点はGuazzi等の報告した-196bpではなく、それより1700bp上流より開始される極めて複雑な機構によりなされることを示す。今後これらの転写機構の組織特異性,およびその腫瘍での相異等を検討する予定である。
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