本研究はインスリン刺激による糖輸送活性化機構の解明のため、インスリンがその受容体に結合し、チロシンキナーゼによる自己リン酸化から糖輸送刺激伝達系の第一段階の基質として重要と考えられるinsulin receptor substrate(IRS)-1を欠くノックアウトマウス(IRS-1null)を用いて実験した。IRS-1nullの脂肪細胞では最大糖輸送活性が約50%まで低下し、インスリン刺激による用量反応曲線も右方に移動し、IRS-1nullではインスリン抵抗性を認めた。PI3-kinase活性はwild typeに比較して最大刺激時に約54.3%と低下していたが、依然としてインスリン刺激は下流に伝達されていた。ワルトマニンの前処置により糖輸送活性もPI3-kinase活性もインスリン効果を完全に阻害した。インスリン刺激2分後の細胞内リン酸化蛋白はIRS-1nullでは弱い190kDのバンドを認めたが、これは抗IRS-2抗体により免疫沈降され、IRS-2と考えられた。さらに抗p85抗体でPI3-kinaseと共に免疫沈降されるpp60を見い出した。従って、IRS-1nullの脂肪細胞ではpp60とPI3-kinaseがassociationしており、インスリン受容体からの情報伝達に主要な役割を果たしていることが推測された。インスリン刺激によるGLUT4分子のtranslocationはIRS-1nullにおいて障害されていたが、細胞総GLUT4量はWild typeと差を認めなかった。以上から、IRS-1を欠くインスリン抵抗性状態は情報伝達系に変化をもたらし、研究の新しい標的物質を見い出した。
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