研究概要 |
腎糸球体メサンギウム細胞におけるアルギニンバゾプレシン(AVP)による細胞内情報伝達系と細胞増殖能に関する研究を進めた。これまで,AVPの作用はV_1受容体に結合後,Phospholipase Cを介してイノシトールリン脂質の代謝回転によるイノシトール3リン酸とジアシルグリセロル産生が細胞内情報伝達に関わることが明らかになっている。今回の研究では,さらにAVPがPhospholipase Dを活性化してPhosphatidylcholineからPhosphatidic acidを産生することを明らかにした。このAVPによるPhosphatidic acidの産生は用量依存性で,またPhospholipase D活性阻害剤であるdiphosphoglycerateで抑制される。またAVPによるPhospholipase D活性化は,主にイノシトール脂質代謝回転に伴うProtein kinaze Cを介する。細胞の増殖能は,mitogen-activated protein(MAP)キナーゼおよび〔^3H〕サイミジン採取で検討した。AVPによる細胞増殖作用は,Protein kinase Cを介することはすでに昨年度の本報告書で報告したが,同時にPhosphoolipase D系もAVPの細胞増殖能の一助を担うことが判明した。AVPによるMAPキナーゼ活性化や〔^3H〕サイミジン摂取は,diphosphoglycerate前処置で用量依存性に抑制された。外因性Phospholipase DもPhosphatidic acidの産生を増加し,MAPキナーゼ活性化や〔^3H〕サイミジン摂取を促進する。この作用もdiphosphoglicerateで抑制される。これらの成績より,腎糸球体メサアンギウム細胞において,AVPはV_1受容体を介してPhospholipase CとともにPhospholipase Dを活性化し,Phospholipase D系のシグナル伝達も細胞の増殖に関与することが示唆される。
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