先天性腎性尿崩症(CNDI)は先天的な腎尿細管でのバソプレシン不応性により尿濃縮障害を起こし新生児期より多飲・多尿および身体精神発達遅延を来す受容体異常症でありその多くは伴性劣性遺伝を示す。本邦においては約80例が報告されているがこの疾患の遺伝子レベルでの解析はなされていなかった。1992年にヒトバソプレシン(V2)受容体のcDNAがクローニングされ原因変異遺伝子配列の調査が可能となった。我々は本邦で初めて遺伝形式の明かな8家系(伴性劣性4家系、伴性劣性か常染色体優性遺伝か鑑別困難な2家系、孤発例2例)でV2受容体遺伝子解析を行い4つの遺伝子変異を同定した。2家系においてV2受容体遺伝子配列を検討し、1家系においては第6膜貫通領域コドン278あるいは279のValineの1アミノ酸欠失を、他家系では第2細胞内ループのコドン143のArg-Proへのミスセンス変異を発見した。両家系ともPCR-SSCP法により家系内発症男性はヘミ接合体、女性保有者はヘテロ接合体である事が明らかとなった。 デヒドロ葉酸還元酵素欠損Chinese hamster ovary(CHO)細胞を用いて正常及び変異受容体を過剰発現した細胞株を樹立した。この細胞株を用いた発現実験により、両変異とも正常量のV2受容体mRNAを発現するが、Arg-Pro変異受容体は受容体数低下(約1/10)、リガンド結合親和性正常、Val欠失変異は受容体数、親和性ともに著明な低下を示した。この結果はこれらの変異体が蛋白生合成の障害あるいは膜輸送の過程で細胞内小器官にトラップされ、バソプレシン不応性を引き起こしている可能性を示唆していた。
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