研究概要 |
〔研究目的〕本研究では、ホメオボックス遺伝子(HOX)と造血細胞の分化、白血病化の機序を明らかにし、アンチセンス核酸による白血病治療の可能性を探るため、人の骨髄系細胞株および白血病症例の臨床検体を用いて以下の検討を行った。1)急性骨髄性白血病(AML)細胞にHOXB遺伝子の発現があるか否か。2) HOXB遺伝子が分化誘導物質により変化を受けるか否か。3)顆粒球系分化と単球系分化HOXB遺伝子発現が異なるか否か。4) HOXB遺伝子はAMLの増殖分化に関係するか否か。5) HOXB遺伝子に対するアンチセンス核酸は、白血病の増殖抑制あるいは分化誘導を生じ得るか否か。 〔方法と結果〕骨髄系細胞株(NKM-1, NB4, HL-60, NOMO-1)および急性骨髄性白血病の臨床検体において、分化誘導物質(ATRA, TPA, DMSO), G-CSFおよびHOXB6に対するアンチセンス核酸を用いて、その分化過程において、HOXB6, HOXB9mRNAおよびFas抗原,bc1-2蛋白の発現量の変化を検討し、以下の結果を得た。1)骨髄系細胞株(NKM-1, NB4, HL-60, NOMO-1)およびAML芽球においてHOXB6, HOXB9mRNAの発現が認められた。HL-60での発現はごく微量であった。2) HOXB6, HOXB9の発現はAML細胞株(HL-60, NKM-1, NB4)においてATRAによる好中球系の分化で増加し、TPAによる単球系の分化で減少した。NOMO-1 (M5)では、ATRAによる分化で増加したがTPAでは変化がなかった。G-CSFはHOXB6, HOXB9の発現に影響を与えなかった。3) HOXB6に対するアンチセンス核酸はNB4, NKM-1のHOXB6mRNA発現および細胞増殖を抑制したが、形態的な変化は認められなかつた。4) NKM-1, NB4のTPAによる単球系分化において、dc1-2発現減少、Fas抗原増加が認められ、分化後にアポトーシスを生じることが示唆された。 〔考察と展望〕HOXB群遺伝子は、主として赤芽球系細胞に発現し、骨髄球系細胞での役割は明らかではなかった。今回の検討により、HOXB6, HOXB9遺伝子は骨髄球系細胞株、骨髄性白血病芽球にも発現しており、顆粒球系分化でその発現が亢進し、単球系分化で抑制され、HOXB6に対するアンチセンス核酸によりこれらの細胞株の増殖が抑制されることが明らかになつた。白血病の成因に関しては、分化の障害が重大な因子と推定されており、分化障害の解除は白血病の治療戦略として注目されている。細胞の分化の方向づけは単一よりむしろ複数の転写因子の組み合わせにより制御されると推定されており、この中でホメオボックス遺伝子のような分化に関与する遺伝子に対するアンチセンス核酸の増殖抑制効果は白血病治療に対する臨床応用の一歩と考えられる。
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