アデノ随伴ウイルス(AAV)の遺伝子治療への応用に有利な特性を認識し、基礎的な研究から、レトロウイルスベクターで当時行なわれていた臨床応用までの幅広い研究をAAVにおいて計画した。内容としてはマーカー遺伝子を利用したAAVの各種細胞への導入に対する検討、ベクター産生システムの開発、治療標的遺伝子も用いた研究である。 (研究結果) A)マーカー遺伝子を利用した各種細胞への遺伝子導入の検討 1)血液幹細胞への遺伝子導入の検討 血液幹細胞への導入はMOl1で1%以上の導入効率が確認された。また各種サイトカインによる導入効率の変化はなかった。 2)白血病細胞への遺伝子導入の検討 ネオ耐性遺伝子の各種白血病細胞株への導入効率はMOl(multiplicity of infection)が1で1%以下であり、レトロウイルスのそれと同じであった。導入効率はMOlとリニアーな関係にあり、慢性骨髄性白血病由来株で高く、Tリンパ球性白血病由来株で低かった。 3)肝細胞への遺伝子導入の検討 各種間細胞株での導入効率は極めて高いことが確認された。 4)グリオーマ細胞への遺伝子導入の検討 当脳外科との共同研究で各種脳腫瘍細胞株への遺伝子導入効率を検討し、その後Tk遺伝子によるヒトグリオーマ細胞の遺伝子治療モデルをマウスで完成させた。 5)Tリンパ球への遺伝子導入の検討 Tリンパ球に対してのAAVベクターでの導入効率は低い。 B)リコンビナントAAVの性質の基礎的研究 1)インテグレーション部位 サザン法やFISHにより、ネオ耐性遺伝子がホストDNAに組み込まれていることが確認されたが、そのインテグテーション部位はランダムであった。 2)AAV遺伝子に働く細胞内蛋白 AAVのP5プロモータ領域にNF-IL6の結合モチーフがあることに注目し、プロモーター活性やウイルス産生におけるNF-IL6の影響を検討した。 C)AAVベクターの導入効率改善の研究(組み替え抗CD34抗体のついたAAVキャプシドの作成) AAVの血液幹細胞への導入効率を高めるためにSCFおよびCD34に対する単鎖免疫グロブリンをAAVの殻につけることを研究している。 (まとめ) Neo耐性遺伝子を用いてた各種細胞へのAAVの導入効率、挿入部位などの基礎的研究をほぼ終了した。とくにFISHを使った系での、ランダムインレグレーションを証明できた(A、B)。パッケージセルラインの確立を含むAAVの産生システムは我々の独創性を生かし、持続的に研究を継続的に続けていく予定である(C)。
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