研究概要 |
骨髄腫細胞は正常の形質細胞と全く異なり細胞表面抗原CD19を発現していない。このCD19発現の消失が形質細胞の発癌機構となんらかの関連があるものと考え、本研究を行なった。骨髄腫細胞における細胞表面抗原CD19の発現消失はCD19遺伝子の発現のないことによった。更にCD19遺伝子発現の消失はその転写因子Pax-5遺伝子の発現消失によることがわかった。Pax-5遺伝子にコードされているBSAP活性をゲル・シフト法で調べると、骨髄腫細胞ではBSAP活性は検出されないことも確認された。従って、骨髄腫細胞においてはPax-5遺伝子の発現に変異があることが明らかになったので、平成8年度は、Pax-5遺伝子の転写調節機構を明らかにするべく、ヒトPax-5遺伝子5'側上流のDNA断片をPCRによるgene walking法にてクローニングし塩基配列を決定した。クローン化した全長1,050bp DNAの塩基配列から予想される転写因子の結合部位にはLyf-1(Ik-1),Ikaros-2(Ik-2),bHLH,E-47,Sox-5等の結合部位が認められた。また、クローン化した全長1,050bp DNA断片のうちで、promoter活性として5'上流から70bpから820bpの領域が必要であることが明らかにした。Pax-5遺伝子を発現しているB細胞株Rajiから核抽出物を得、クローン化した1,050bp DNAからのDNA断片をtemplateにしてgel shift assayを行い、各probeに特異的に結合する因子活性を認めた。以上より、本研究により骨髄腫細胞ではCD19遺伝子の転写因子であるBSAPの発現がなく、それはBSAPをコードするPax-5遺伝子の発現変異によることが明らかとなった。更に、ヒトPax-5遺伝子の5'上流の転写調節領域のDNA塩基配列を明らかにし、その予想される結合因子部位を明らかにした。本研究でクローン化した5'上流1,050bpの転写調節領域の更なる研究は今後骨髄腫の癌化を明らかにする上で極めて重要となることが期待される。
|