平成7年度の研究によって、IgM抗Fas抗体感受性ATL細胞株のアポトーシスには少なからずオキシダントの産生が関与していることが明らかとなった。しかしこの研究で用いた感受性株(SO4)およびそのサブクローンである高度耐性株(R-SO4)ではFas抗原量が異なっており(SO4>R-SO4)、耐性化の機序は単に抗原量の相違による可能性が残されていた。そこで平成8年度は、Fas抗原量がほぼ同一な感受性株(ST1)および高度耐性株(R-ST1)を新たに樹立して研究に用いている。 細胞株を用いた研究によって、アポトーシス耐性化の機序にはアンチオキシダントとしての還元型glutathione(GSH)が関与していることが明らかとなったため、研究を細胞株から臨床材料(患者末梢血ATL細胞)に発展させた。GSH量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定し、正常リンパ球とATL細胞とで比較検討した。少なくとも現在までのところ、ATL細胞の方が正常リンパ球よりもGSH量が多いという結果は得られていない。そのため、ATL細胞がFas抗原を恒常的に多量に発現しているにも関わらず、生体内でアポトーシスを起こさずに増殖を続ける機構は、GSH量の増加では説明できない可能性が出てきた。 そこでこれまの研究に加え、アポトーシスシグナル伝達物質の一つとして注目を浴びているceramideについても検討を行った。感受性細胞株からは抗Fas抗体処理によって時間依存性および濃度依存性にceramideが産生されたが、耐性細胞株からは全く産生されなかった。また外来性のC_2-ceramideによって、耐性株は感受性株と同様にアポトーシスを引き起こした。今後はオキシダントとceramideとの関係についても検討を加えて行く予定である。
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