HTLV-Iのキャリアーは日本に約100万人いると推定されており、そのうち急性型成人T細胞白血病(ATL)を発症するのは、年間500人位であり、極めて予後不良の疾患である。本研究により、HIVベクターを用いATL細胞株に効率良く遺伝子を導入し自殺させることが可能であることが示された。自殺遺伝子である単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子の上流にT細胞で強い発現活性をもつSL3プロモーターを連結しHIVの両LTR間に組み込んだ(HXBSL3TK)。HSV-TK遺伝子は、細胞毒性はないがガンシクロビルをリン酸化することにより毒性を発揮し細胞を死滅させる。HIVベクターとHXBSL3TKをCos細胞にリン酸カルシウム法を用いて導入し2日間培養し、上清をATL細胞株と2日間培養した後、トリパンブルーで染色し死細胞率を測定すると、ガンシクロビルの濃度依存性に死細胞率が上昇し約90%の細胞が死滅した。このようにHSV-TK遺伝子をHIVベクターによりATL細胞特異的に導入し、ガンシクロビルにより死滅させる系が有効に働くことが示された。更に、HSV-TK遺伝子の発現量を増加させるためにTAT遺伝子を利用したプラスミドを作成した。TAT遺伝子はTARに働き蛋白の発現量を数百倍増加させる作用があり、SL3プロモーターに比較しても数百倍が発現量が高くガンシクロビルに対する感受性を高めることが可能となった。これにより臨床で使用されているガンシクロビルの血中レベルで自殺させることが可能となった。更にパッケイジング細胞株を作成しており新鮮ATL白血病細胞にも高いタイタ-で遺伝子を導入できることを確認している。このようにHIVベクターを用いたATLの遺伝子治療が可能であることが示されたことは治療法の開発のみならず遺伝子治療の分野にも有益と思われる。
|