前年度までの実験結果から急性腎不全モデルの病態にアポトーシスが深く関与していること、また腎尿細管細胞上に発現したFasがアポトーシスの誘導因子と考えられることが推定されていた。ただこれまでは、Fas陽性細胞が30分虚血再灌流腎でもっとも発現が増加しているのに対して、60分、120分虚血再灌流腎では、対照に比較して明らかに発現は増強しているものの、30分虚血再灌流腎より徐々に減少していること、Fas陽性細胞は皮質から髄質外層にかけて分布し、ヘンレ係蹄から遠位部の尿細管に発現しているのに対して、アポトーシスは腎髄質外層内帯が主であることなどの原因が未解決であった。今年度、われわれは同モデルのFas ligand(FasL)の免疫組織染色に成功した。この結果、FasL陽性細胞は腎髄質外層内帯の鬱血した血管束の中に存在し、その細胞数は120分虚血再灌流腎でもっとも多く、アポトーシス細胞数と並行していた。これに対して腎皮質や髄質外層外帯ではほとんどFasL陽性細胞は見られなかった。この結果により前述の疑問は説明可能となり、より病態が明らかにされた。FasL陽性細胞を、他の細胞表面マーカーと同時に染色し細胞としてのその性格づけを明らかにすること、虚血時間を同一とし、再灌流時間を変化させて同様の実験を行うことが更なる検討課題と思われる。今回確立したシステムは当科に集積している豊富な腎生検標本におけるアポトーシスの発現と機構の解析に有効であり、臨床的に重要性を増していくと考えられる。
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