急性腎不全の実験モデルであるマウス虚血-再潅流腎モデルにおいて、光学顕微鏡、電子顕微鏡、TUNEL法等により、腎髄質外層内帯の遠位尿細管細胞にアポトーシスが観察されることが明らかとなった。このアポトーシスは、誘導分子FasによるFas-Fas ligand系を介していると考えられた。すなわち、この実験モデルで、Fas蛋白やFas mRNAはアポトーシスが認められるのと同様の部位である腎髄質外層内帯の遠位尿細管に増強することが、免疫染色やin situハイブリダイゼーションにより観察された。一方、Fasの増強は腎皮質や髄質外層外帯でも観察されたが、Fas ligand陽性細胞は腎髄質外層内帯においてのみ観察された。また、遺伝的にFasが機能しないlprマウスを用いた虚血-再潅流腎モデルではアポトーシスの減少が見られ、Fasの存在しない状態ではアポトーシスが発現しにくいことが裏付けられた。さらに、Fasの出現が再潅流の初期に見られるのに対して、Fas ligand陽性細胞は遅れて増加し、その時期にアポトーシスの増加が認められたことからも、Fas-Fas ligand系の確立がアポトーシスに重要であると考えられた。 アポトーシスそのものが、急性腎不全の予後とどのように関わるか不明な部分も多いが、Fas-Fas ligand系を制御できれば、腎不全における障害の程度を軽減できる可能性が示唆された。
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