研究概要 |
熱ショック蛋白質(heat shock protein,HSPs)は,ストレス環境下で細胞内に短時間に合成誘導され,系統発生の過程でアミノ酸配列がよく保存されており,細胞防御・細胞機能維持に必須であると考えられている.我々は主要なHSPsを哺乳動物から精製し,特異抗体の作製に成功してきた.これらを使用し,哺乳動物臓器でのHSPsの検索がより正確にできる点が本研究の特色である.我々は急性腎毒性障害モデルにおけるHSPsの障害細胞内誘導と局在変化を報告し,HSPsは障害細胞の保護と修復に関与していると推測している.本研究は,その他の急性腎障害モデル,およびヒト腎障害例でのHSPsの発現・意義について検討した. 1.ラットの左腎動脈を1時間結紮後に再開通させ,1時間後から28日目まで経時的に腎臓を摘出し,HSP73とHSP90の障害細胞内誘導と局在変化を検討した.HSP73とHSP90は共に近位尿細管 S3セグメントの障害を受けた上皮細胞細胞質に短時間に誘導され,同セグメントの再生細胞質内に再び誘導された.これらは,HSP73とHSP90は虚血後の細胞の保護と修復機構に密接に関与する事を示唆すると考えられる. 2.急速進行性腎障害を有する症例の生検腎,剖検腎標本について,抗HSP73抗体,抗HSP90抗体を用いて免疫組織学的にHSP73とHSP90の発現について観察した,細胞性半月体に強い集積が認められた.また,尿細管壊死後の再生上皮にも発現がみられた.以上,虚血モデルでも,障害を受けた細胞および再生細胞でHSPsの強い誘導が確認された.ヒト急速進行性腎障害においては,細胞性半月体に強い発現がみられ,半月体の形成に何らかの役割をになっていることが推測された.また,尿細管壊死後の再生上皮細胞にHSPsの誘導がみられ,我々の動物モデルでの成績と同様であった.
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