研究概要 |
熱ショック蛋白質(HSPs)は、ストレス下で細胞内に短時間に合成誘導され、系統発生の過程でよく保存されており、細胞防御・機能維持に必須であると考えられている。我々は主要なHSPs(HSP60,73,90)を哺乳動物から精製し、特異抗体の作製に成功してきた。これまで我々は、急性腎毒性障害モデルにおけるHSPsの障害細胞内誘導と局在変化を報告した。本研究は、その他の急性腎障害モデル、ヒト腎障害症例でのHSPsの発現・意義について検討した。 1.ラット左腎動脈を1時間結紮後再開通させ、経時的に腎を摘出し、HSPsの障害細胞内誘導と局在変化を検討した。HSPs(HSP73、90)は障害を受けた近位尿細管上皮細胞細胞質に短時間に誘導され、その再生細胞質内に再び誘導された。HSPsは虚血後の細胞の保護と修復機構に関与すると考えられる。 2.急速進行性腎障害症例の生検・剖検腎標本で免疫組織学的にHSPs(73、90)の発現を観察した。細胞性半月体に強い集積がみられ、HSPsはこの形成に関与していると考えられる。 3.ゲンタマイシンをラットに投与し、光顕レベルでHSPsは、近位尿細管の障害されたライソゲームに蓄積すると推測された。免疫電顕でこれらの事実を確認した。HSPsは傷害されたライソゲームの保護と修復機構に関与すると考えられる。 4.ラットを3日間断水し脱水モデルを作製した。経時的に腎を摘出し、皮質、髄質、乳頭部に分割し、HSP60の免疫組織学的・生化学的検討を行った。分布は近位尿細管から集合管にかけてミトコンドリアおよび細胞質に認められ、ヘンレループから集合管にかけて管腔側により強く発現し、他のHSPsの局在と異なっていた。脱水により管腔側により強い集積がみられ、TBS可溶性画分でも3日後乳頭部に正常の約2倍誘導され、HSP60は水の再吸収に何らかの役割を演じていると考えられる。
|