肝細胞増殖因子(HGF)の腎疾患におよぼす影響を検討するとともに、その治療薬としての可能性を研究することが本課題の目的であった。HGFはもともと肝細胞の増殖を促進する因子として九州大学の中村らによって単離同定された蛋白質であるが、肝細胞のみでなく腎細胞にも細胞増殖促進、細胞分化促進の作用をもつことが明らかにされた。さらに急性腎不全モデル動物においてHGF投与により腎保護効果がもたらされることも報告されている。今回我々は、臨床上最もおおきな問題である慢性腎不全疾患においてHGFがどのように病態に影響を与えているか、またその治療薬として使用できる可能性があるかどうかを明らかにすることを研究の目的とした。我々はまず、種々の慢性腎不全患者の血中HGF濃度を測定し、体内のHGF濃度がこれらの患者でどのように変化しているかを検討した。その結果これらの患者では血中HGF濃度が上昇していることが明らかとなった。さらにすすんでこの血中HGF濃度の上昇の直接原因を検索するためこれまでHGFの産生を亢進させることがしられているサイトカインの血中濃度もこれらの患者で検討した。IL-1α、IL-1β、TNF、injurinの測定とおこなったがいずれにおいても慢性腎不全患者でこれらの因子の上昇は認められなかった。したがって慢性腎不全患者における血中HGF濃度の上昇の原因は今後の課題である。我々は、HGFのin vivcでの治療効果を検討するための手段として、HGF発現アデノウイルスベクターを作成した。予備実験によれば、試みた投与法では、このアデノウイルスベクターを腎の細胞に感染させ、in vivcでHGF遺伝子を発現させることは困難であった。
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