1)これまでの実験事実よりエストロゲンには腎庇護作用が認められることが認められたため、エストロゲンの産生臓器である卵巣を摘出しこの影響をSHCラット、腎摘SDラットで検討した。SHCラットでは生後24週で、摘卵巣により腎障害は増強し、卵巣は腎障害に対して抑制的に働いていると考えられたが、48週ではこの摘卵巣による腎障害増強効果は消失した(Nephron 1996 72:72)。一方SD腎摘ラットでは、摘卵巣により48週での腎障害は抑制された(Nephron 1996 73・251)。これらの結果より、24週までは卵巣摘出による腎庇護作用を有するエストロゲンの低下により、腎障害は増強されると考えられた。エストロゲン産生が低下する24週以降では、摘卵巣による影響はエストロゲン低下による影響は少なく、むしろ摘卵巣によるGHの低下による腎障害抑制作用が前面に現れると考えられた。 2)SHCラットは雌より雄に腎病変が強く、性差が認められた。この腎病変の発現における性差が、普遍的なものであるかどうかを進行性腎障害モデルであるアドリアシン腎症で検討した。SHCラットと同様に腎障害は雌より雄に強く現れた。しかも除睾により腎障害の発現が抑制された。このことは、少なくとも実験腎炎モデルにおいて腎障害の発現に性差が認められることは普遍的な事象である可能性が強いと考えられた(Am J Neph 1996 16:540)。さらにこの雄ラットのアドリアシン腎症モデルで、除睾及びエストロゲン投与による腎障害への影響を検討した。除睾およびエストロゲン投与により腎障害は抑制された(Nephrology 1996 2:45)。 これらの事実より、エストロゲン産生臓器の卵巣も腎霜害の発現に関与していることが示唆された。 3)雌ラットのアドリアシン腎症モデルで、コントロールラットあるいは摘卵巣ラットにテストステロンを投与しテストステロンの腎障害作用に対する卵巣の抑制効果を検討した。卵巣摘出ラットにおいてはコントロールラットに比し、テストステロンによる腎障害作用は増強して認められ、卵巣は男性ホルモンの腎障害作用に対し抑制的に働いていると考えられた(Kidney and BP research、in press)。
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