腎疾患の進行過程は糸球体硬化と間質線維化の進展として捉えることが出来る。本研究は腎間質線維化の進展に、尿細管上皮細胞が重要な役割を果たしていることを明らかにする目的で行われた。まず、ラットに片側の尿管閉塞(UUO)モデルを作成して組織所見の推移を検討した。その結果、尿管結紮後3日以内に尿細管上皮細胞に著しい増殖活性が誘導され、その後近位尿細管上皮細胞のosteopontin(OPN)の発現やマクロファージを主体とする細胞浸潤が間質組織に出現する。さらに、α-smooth muscle actin(αSMA)陽性の間質細胞が増加し、point counting法で間質量を検討すると時間経過とともに次第に増加する。この様に、術後後2週以降には間質の線維化が形成されることが明らかになった。そこで、免疫抑制薬の一種であるミゾリビンをこの動物モデルに投与した。その結果、ミゾリビンの投与群では近位尿細管上皮細胞のOPNの発現は変らないが、ED-1陽性細胞の湿潤が明らかに抑制されており、さらに間質量の増加が著明に抑制されていた。従って、先行する間質への細胞浸潤が間質線維化に重要な役割を果たしていることが明らかになった。この動物モデルでは、尿管結紮による尿細管内圧の上昇や尿細管拡張による張力負荷などの物理的刺激が、尿細管上皮細胞の細胞動態を変化させる可能性が考えられる。そこで、培養近位尿細管細胞を用いて、細胞動態に対する張力負荷の影響を検討した。その結果、張力負荷により近位尿細管細胞の細胞動態が変化して、サイトカインやケモカインの産生が亢進することが明らかとなった。すなわち、このモデルでは近位尿細管細胞でのサイトカインやケモカインの産生亢進が間質線維化の形成に重要な間質への細胞浸潤を誘導するなど、大きな役割を果たす可能性が示された。
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