ヒトエリスロポエチン(EPO)cDNAおよび大腸菌ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウィルス(各々AdCMVEPO、AdCMVLacZ) (いずれもCMVプロモーターでドライブさせる)、標的遺伝子を含まないアデノウィルス(AdNull)の3種を作製した。これらをChinese Hamster Ovary細胞(1×10^6個)に感染させ、48時間後AdCMVEPO感染細胞におけるヒトEPOの産生をラジオイムノアッセイで測定した結果、5440mU/mlのヒトEPOの発現を認めた。しかし、AdNullおよびPBSを投与した細胞ではヒトEPOの発現は認められなかった。次に、腎性貧血をおこすモデルマウスとしてDBA/ZFG-PCYを用意した。このマウスにAdCMVlacZを腹腔内投与し、24時間後腹膜と腹腔内臓器を摘出しX-Gal染色にて導入遺伝子の発現細胞を検討したところ、壁側および臓側の腹膜中皮細胞にのみb-Gal.の発現を認めた。AdCMVEPO (1×10^8pfu/個体)をヘマトクリット(Ht)が20-25%になる22-24週令DBA/ZFG-pcyに腹腔内投与し、投与24時間後腹膜中皮細胞のノーザン解析でヒトEPOの遺伝子発現を認めた。投与後10、21、28、40日目の血中ヒトEPO値、網状赤血球(RTC)、Htを測定した。AdCMVEPO投与前の血中ヒトEPOは29.4+/-5.4mU/mlであったが、投与後40日間の平均血中ヒトEPOは2559mU/mlで、AdCMVEPO投与後1日目に14730+/-930mU/mlの最大血中濃度を示し、投与後40日に至っても高値が持続した。RTCは、AdCMVEPO投与前1.5+/-2%であったが、投与21日目には20+/-3%に増加し、40日目には5%に減少した。Htは、AdCMVEPO投与後28日目と40日目で対照群に比し有意に上昇し、28日目では平均42.6+/-4%と最大となり、40日目に至っても42+/-5%であった。対照群として作成したAdNullおよび生理食塩水を投与した群では、血中ヒトEPO、RTC、Htは投与前に比し有意な変化はみられなかった。本実験において、AdCMVEPO (1×10^8pfu/個体)の腹腔内への1回投与により適切な貧血の改善が、予期された以上に長期にたわり認められた。
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