研究概要 |
1.胚培養による染色体分析 受精卵の培養は、帯刀ら(組織培養、18巻、83-87,1992、Cong.Anom.Vol.32,31-41,1992)の方法を用いた。材料としては、培養成績の良いB6C3F_1を用いた。糖およびケトン体の添加は、Sadlerらの報告(Diabetes,Vol.38,70-74,1989)を参考にして、糖は300mg/dl、ケトン体は2-Hydroxybutyrate32mMを培養液(modified Whitten's medium)に添加した。対照の無添加で培養した卵においては、染色体の数的異常8.0%、構造異常3.9%、染色体の数的異常を誘発する仁形成部位連結の頻度1.4%であるのに対し、糖添加の結果においては、それぞれ25.0%、7.7%、21.7%、さらに糖とケトン体を共に添加した結果においては、26.7%、13.3%、26.7%であった。これらの結果により、糖とケトン体は共に受精卵に染色体異常を誘発ということが示唆された。 2.糖尿病環境での細胞培養による研究 primary cell cultureには、ICRマウスからのlate gastrulation-stage (day 8)の胚の細胞を用いた。培養液には、上記のSadlerらの報告を参考にして、CMRL1066(シグマ製)およびEagel's minimum essential medium(MEM、日水製薬)を用い、300mg/dlの糖添加および32mMの2-Hydroxybutyrateを添加した。培養期間は、帯刀らの報告(Cong.Anom.Vol.29,7-13,1989,Diabetes,Vol.40,1245-1250,1991,Biol,Neonate,Vol.60,395-402,1991)を参考に、1週間行った。対照の無添加の培養液にて培養した細胞においては、数的異常2.9%、構造異常1.9%、仁形成部位連結の頻度1.9%であるのに対して、糖添加の結果においては、それぞれ3.0%、8.1%、15.1%、さらにケトン体添加においては、4.8%、7.1%、9.5%であった。この糖とケトン体の単独添加においては、数的異常には変化はみられず、構造異常および仁形成部位連結の発生頻度に増加がみられた。糖およびケトン体を共に添加した結果においては、数的異常14.1%、恒常異常9.0%、仁形成部位連結17.9%とそれぞれ高い発生率を示し、特に糖とケトン体の共存下において数的異常が高い発生率を示した. 以上、1.培養胚および2.培養細胞の結果より、糖およびケトン体は細胞にも少なからず影響を及ぼしているが、細胞よりも受精卵においては、より大きな影響を及ぼし、染色体異常を誘発することが示唆された。
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