生後10日目の新生仔ウィスター系ラットを麻酔、右頚動脈を永久結紮し、さらにナイロン糸を逆行性に上行大動脈に挿入し、その上、左の内頚・外頚動脈分岐部を脳外科手術用クリップではさみ脳虚血を作製した。本研究では2時間の虚血、再潅流24時間後の神経細胞の変化を検討した。(1)アポトーシス細胞検出のために、6μmの冠状断連続切片を製作しH.E.染色とTUNEL法にて比較検討した。前頭部切片のTUNEL法陽性細胞の頻度は、右大脳皮質・線条体で100%、左大脳皮質が20%、線条体が70%であった。頭頂部切片右大脳皮質・線条体で100%、視床で80%、海馬CA1が80%、CA3が60%、歯状回が60%であった。左脳ではそれぞれ50%、70%、60%、50%、0%、40%、であった。これらはH.E.染色にて変性を認めた部位とほぼ一致した。また前頭部切片の右線条体および頭頂部切片の右大脳皮質においては、ともにH.E.染色にて変性を認めた細胞の約80%がTUNEL法陽性であった。以上からこの変性細胞の主体がTUNEL法陽性であることがわかった。(2)TUNEL法で100%陽性細胞を認めた頭頂部切片右大脳皮質第5層の錐体細胞を透過型電子顕微鏡により検討した。核内ではクロマチンがいくつもの小さな凝集塊となり、これらの周りには核膜が存在せず、アポトーシス的な所見は認めなかった。核膜も一部断裂していた。細胞質内のミトコンドリア・粗面小胞体は著明に拡大・空胞化していた。細胞膜も断裂を来たしていた。以上の状態が同時期に存在し、この変化は電顕学的にはネクローシスであると考えられた。以前から、TUNEL法においては疑陽性の頻度が高く、確診には透過型電子顕微鏡による観察が必要といわれており、本研究のように虚血解除24時間後に多くの神経細胞が損傷をうける強い虚血負荷では変性の主体はネクローシスであることが判明した。
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