Wnt-1(アミノ酸241から256)ペプチドに対するポリクローナル抗体をウサギで作成した。ラット胚サンプルをSDS-PAGEにかけ、抗体の特異性を検討し、No.2(80KD物質を認識)とNo.4(80KDと42KDの物質を認識)の抗体を得た。42KD物質がWnt-1に対応していた。 ラット胚をこれらの抗体を用いてホールマウント法で染色した。No.4染色は、胎生10.5日胚で中脳・間脳の背部に見られ、胎生11.5日では、中脳・間脳の背部とともに中脳と後脳の境の背側部に見られた。胎生12.5日胚では、さらに脊髄の背部にも見られた。胎生13.5日胚では対照胚ともども胚全体が染まっていた。No.2でも、弱いが同様の染色が見られた。染色は神経管背部の細胞とともに、その周囲の間充織および移動中の神経褶細胞に見られた。 これらの抗体を添加したラット血清中で、胎生9.5日胚を48時間培養した。No.4抗体処理胚では、中脳域と脊髄後半の発育不全が見られた。2H3の染色は処理胚では三叉神経域のみに見られたが、対照胚では三叉・顔面・聴・舌咽神経に見られた。39.4D5の染色は主に脊髄腹部に見られ、処理胚での染色は対照胚に比べ弱く、脊髄の後半部ではほとんど見られなかった。端脳の嘴部に抗カテニン抗体染色が見られたが、対照胚では見られなかった。No.2抗体処理胚でも上記と同様の傾向が見られたが、程度は悪かった。 これらの結果は、Wnt-1タンパクがラットの中脳と脊髄の発生に関わっていることを示している。さらに、Wnt-1タンパクは脳神経・運動神経の発生に必要と考えられる。ホールマウント免疫染色法ではカテニンの分布が不明瞭なため、Wntシグナル系との関連についてはまだ解析を進めなければならない。
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