本年度は骨髄細胞の分化に及ぼす成長固子の影響ならびに骨芽細胞へ分化するために要する骨芽細胞の条件を明らかにすることを主な目的として実験を進めた。骨髄細胞中には多分化能を有する細胞がありデキサメタゾンにより骨芽細胞へ分化することが知られている。申請者らはこれまでI型コラーゲンマトリックスに分化誘導能があることを見いだしている。I型コラーゲンマトリックスは骨の主要な有機質成分であることから、申請者らの研究は骨のコラーゲンが骨細胞の新生にも関与していることを示唆するものである。骨基質中には成長因子も他組織に比べ高濃度含まれていることも知られている。とくにTGF-βは最も含量が多い。そこでこの成長因子が骨髄細胞の骨芽細胞への分化にどのような影響を与えるのか調べた。TGF-βを生理的濃度に近い2ng/mlの割合でコラーゲンマトリックスに混入し、骨髄細胞を培養したところ、無添加群に比べ骨芽細胞への分化が促進された。骨基質中にはTGF-βの他にIGF-IIやFGFも含まれているが、これらの因子にはTGF-βに認められるような効果は見いだされなかった。このことはTGF-βが骨細胞の新生に強く関与していることを示すものである。一方、コラーゲンマトリックスにより誘導される細胞の条件を明らかにすべく、繼代培養を繰り返した骨髄細胞でもコラーゲンマトリックスにより骨芽細胞へ分化が誘導されるか否かを検討した。繼代を繰り返した骨髄細胞では分化は誘導されず、それと同時にTGF-βに対する応答性も大幅に低下した。これは繼代を繰り返し行うことで、細胞の多分化能が失われたためと思われるが、さらに研究が必要と思われる。
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