平成5、8年に行ったマーシャル諸島クワジェリン環礁およびマジュロ環礁の調査より以下の結果をえた。(1)クワジェリン環礁の調査結果から、誕生年が1954年以前のマーシャル住民の甲状腺結節性疾患(触知結節)頻度は1954年時(水爆実験「BRAVO」施行年)の居住地とビキニ環礁からの角度に逆相関する。(2)FT3あるいはFT4が正常値以下であった者は0.5%、抗サイログロブリン抗体あるいは抗マイクロゾーム抗体陽性の者は2.5%であり、橋本病の頻度、抗体陽性の頻度は日本に比してかなり低い。(3)尿中ヨード排泄量は約1/3がWHO基準のModerate iodine deficiencyとなり、マジュロ住民は現在ヨード欠乏状態にあることが推定された。(4)住民の推定被爆量については共同研究者のProf.K-RTrottのグループが住民の生活歴、公表データ、Dr.S.L.Simonが1993年までに行ったマーシャル諸島の土中残留^<137>Cs量より算定を試みたが平成8年度中に完了していない。(5)穿刺吸引により採取した検体のK-ras onocogene、codon61の解析では異常は認められなかった。(6)1994年に手術された11例の手術切除標本の病理最終診断では乳頭癌5例、濾胞癌3例、微小癌2例であった。それらの6例についてp-53蛋白の検索を行い、4例に陽性所見が得られた。 以上より以下の示唆を得た。(1)その発生頻度の分布から放射線被曝が影響している可能性は否定できない。(2)病因にヨード欠乏が関与している可能性がある。(3)切除標本では濾胞癌の頻度が比較的多く、放射線被曝の他地域の経験と矛盾するように思われる。(4)チェルノブイリで観察されたK-ras遺伝子の異常は全く認められず、チェルノブイリとは異なった機序で発生している可能性が高い。
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