研究概要 |
インスリン様成長因子(Insulin-like growth factor: IGF)はヒト甲状腺腫瘍細胞の増殖に重要な役割を果たしていることが知られている。甲状腺癌においてはオートクリンあるいはパラクリン機構が存在し、特異的受容体を介して作用している。また腫瘍細胞はIGF結合蛋白(IGF-binding protein:IGFBP)を産生し、IGFの作用を増強あるいは抑制することが知られている。我々はすでにWestern ligand blotを用いて、甲状腺乳頭癌では腫瘍周囲組織に比較してIGFBPが増加していることを報告した。今回はIGFBPの特性をさらに検討するため、甲状腺乳頭癌7症例を対象とし、各々のIGFBPに特異的なプローベを用いてNorthern blotで解析した。まず、Western ligand blotにより、全例において分子量30-34 kdのIGFBPが癌部組織で著明に増加していることを再確認した。Northern blotでは、周囲組織に比較して癌部組織で有意にIGFBP-2 mRNAの発現が増加していた。IGFBP-4 mRNAおよびIGFBP-5 mRNAについては、各々の発現を確認できたが、周囲組織と癌部組織とのあいだに有意差は認めなかった。IGFBP-1,3,6 mRNAの発現は認めなかった。次にヒト乳頭癌より樹立されたTC細胞を用いて、IGF-1およびFCSを添加し、IGFBP-2 mRNAの発現レベルの変化を観察したが、変化は認めなかった。以上から甲状腺癌においては IGFBP-2が有意に増加しており、これは腫瘍細胞の増殖による二次的な結果ではないことが分かった。ヒト甲状腺癌におけるIGFBP-2の病態生理学的役割は不明であるが、癌細胞の増殖に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
|