人工血管に内皮細胞を付着させ抗血栓性を高める研究が精力的に行われているが、人工血管を負に帯電させることで、負に帯電している血液中の細胞表面との電気的な反発力によりで細胞成分の人工血管への付着を防ぐことが本研究の目的である。エレクトレット化および非エレクトレット化ゴアッテクスシートを用いて、犬の下大静脈に植え込み実験を行った。グラフトの開存を指標にした長期開存率では差を認めなかったが、シート状のパッチを使用しているために植え込み手術時の手技的な問題が関与している可能性が示唆された。そこで植え込み後数日でグラフトを取り出し、光顕、電顕で観察した。光顕では、グラフトに付着したフィブリンの厚さや付着細胞数に差が見られなかったので電顕で観察すると、グラフト表面には既に血管内皮の進展を認め、このために差が見られなかったと判断した。グラフト中央部の内皮が未だ進展して来ていない部分を重点的に詳細に観察するために、原子間力顕微鏡での観察を施行中である。より大きなグラフトの移植実験には管腔構造のエレクトレット化ゴアテックスの作製が必要である。現在のエレクトレット化ゴアテックスは、平板な陰極にゴアテックスシートを固定し、針状電極よりコロナ放電を行うことで作成している。管腔構造のゴアテックスをエレクトレット化させるためには、管腔内にその径に合わせた柱状電極をおき外部からの放電を行うこと、または管状の液体電極を使用して電位をかけることで可能と考えられるが、管腔構造の物質をエレクトレット化した報告はなく、新たな装置の開発が必要となる。装置の開発は今回の研究の範囲を越えるので、エレクトレット化したシートを筒状に形成したものでの植え込み実験も同時に開始する事にしている。
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