研究概要 |
urokinase-type plasminogen activator(u-PA)は、細胞間基質を溶解して腫瘍の浸潤転移に関与しているものと考えられており、我々は大腸癌においてu-PAが早期より発現され(Jap.J.Cancer Res.86(1):48-56,1995)、その陽性群が有意にリンパ節転移率が高く5年生存率も低いこと報告した。一方、ras遺伝子とp53がん抑制遺伝子は、大腸癌の発生進展に関与しており、近年、Ha-ras遺伝子がu-PAの発現を誘導することがmouseのcolon car cinoma cellsを使て報告された(Int.J.Cancer:43,816,1989)ことから、我々は29例の大腸癌切除標本を用いて、ras oncogeneの発現をp21 proteinの発現で、さらに、p53タンパクとu-PAの発現を免疫組織化学染色法を用いて検討した。 その結果、(1)ras p21とu-PAは一部の腫瘍細胞細胞質に、p53は腫瘍細胞核に陽性で、それらの陽性率は、ras p21、p53、u-PAで29例中各々10例(34%)、19例(66%)、18例(62%)であった。また、組織型、壁深達度について、それらの陽性率に大きな差はなかった。(2)ras陽性10例中、u-PA陽性7例(70%)陰性3例(30%)で、p53陽性19例中、u-PA陽性15例(79%)陰性4例(21%)と、ras、p53異常発現例ではu-PA陽性率が高かった。(3)u-PA陽性18例中、ras陽性は7例(39%)、p53陽性は15例(83%)で、u-PA陽性例はp53陽性率が高かった。(4)n_1以上のリンパ節転移率は、ras陽性10例中4例(40%)、p53陽性19例中13例(68%)、u-PA陽性18例中12例(67%)で、逆に、リンパ節転移陽性14例中、ras陽性4例(29%)、p53陽性13例(93%)、u-PA陽性12例(86%)と、p53やu-PA陽性例にリンパ節転移率が高かった。しかも、このp53陽性13例中u-PA陽性が12例、またu-PA陽性12例は全例p53が陽性であった。 以上より、u-PAはp53遺伝子異常に伴って発現し、癌細胞が浸潤転移していく機構がヒト大腸癌においても推定される。よって、術前biopsy検査において、u-PAとp53陽性例は早期癌であっても少なくとも縮小手術をすべきではないものと考えられる。
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