研究概要 |
体重200g前後のWistar系雄性ラットを用いて,肝移植に準じた肝虚血・再灌流モデルを作成し、再灌流後の微小循環障害とくに血管内皮と白血球の相互反応に対する血小板活性化因子platelet-activating factor (PAF)の役割を検討した.肝虚血時間は30分で,肝虚血中にPAF受容体拮抗物質(PAF-A)を門脈より投与し,生理食塩水投与のコントロール群と比較し,以下の結果を得た.なおPAF-Aとしては当初予定したCV6209よりも副作用の少ないTCV-309を用いた.1)Intravital fluorescence videomicroscopy (IFVM) : PAF-A群では再灌流後に類洞内皮あるいは終末肝静脈枝と膠着(sticking)する白血球数は有意に減少した.血流のある類洞の割合は増加し,CapiFlowで測定した白血球速度は有意に速かった.Propidium iodideで標識される核膜障害細胞の数も有意に減少した.2)Chemiluminescence:コントロール群で見られた肝静脈血の好中球活性酸素産性能の増加はPAF-A投与群では抑制された.3)H-E染色による肝組織像:PAF-A投与により再灌流後の肝細胞の変性・壊死は軽減した.3)抗ラットICAM-1抗体(IA29)を用いた免疫組織染色:内皮側の接着分子ICAM-1の発現は,コントロール群では再灌流後60分で早くも認められたのに対し,PAF-A群では180分まで発現が抑制された.以上,肝虚血・再灌流後に生ずる血管内皮上のICAM-1発現,内皮-白血球相互反応,活性酸素増加,組織障害などの一連の反応がPAF-Aの投与により軽減したことから,肝虚血・再灌流後の組織障害発生機序において重要な役割を担っていることが明らかとなった.今後は肝移植モデルにおいてPAF-Aの効果を検討し,移植後においても内皮-白血球相互反応の制御がgraft viabilityを保護するために重要であるという仮説を証明したい.
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