[目的・方法]近交系のLewisラットを用いて、cuff techniqueにより同所性肝移植を行い、グラフト機能不全の要因である冷保存・再灌流障害における内皮-白血球相互反応を中心とした肝微小循環動態を検討した。さらに、障害発症過程における炎症性サイトカインIL-1および血小板活性化因子PAFの関与を、それぞれIL-1受容体拮抗物質(IL-1ra)およびPAF受容体拮抗物質(TCV-309)を用いて検討した。グラフト保存はUW solutionで24時間とし、IL-1ra、TCV-309はグラフト採取時および移植直前にグラフトリンス液として投与し、対照群は生理食塩水でリンスした。 [結果](1)生体蛍光顕微鏡による肝微小循環:対照群では移植肝再灌流後、白血球は類洞内皮あるいは終末肝静脈枝に著明に膠着(sticking)し、その数は経時的に増加した。それにともない、propidium iodideで標識される障害肝細胞数も増加した。IL-1raおよびTCV投与群では、移植後3時間の膠着白血球数ならびに障害肝細胞数は対照群に比べ有意に減少した。さらにIL-1ra群では、血流のある類洞の割合ならびに終末肝静脈枝の白血球速度は有意に増加した。(2)ICAM-1の免疫組織染色:対照群で認められた類洞・中心静脈内皮のICAM-1の発現はTCV群において減弱した。(3)生存率:移植後の生存率は対照群とTCV群で検討したが、対照群では7例中5例が3日以内に死亡したのに対し、TCV群では7例中6例が30日以上生存し、有意に生存率が延長した。 [結論]肝移植におけるグラフトの冷保存・再灌流障害の発症過程においては、内皮-白血球相互反応にもとずく微小循環障害が関与していることが明らかとなった。さらにIL-1ならびにPAFは、その障害発生機序において重要な役割を演じており、これらを制御することによりグラフトのバイアビリティを保つことができると考えられた。
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