研究概要 |
臓器移植において術後感染症の予防・治療は拒絶反応・GvH対策と同様に重要な問題である。中でもサイトメガロウイルス(CMV)感染症は発症頻度・重症度からみて特に重要である。近年、臨床病理学的検討から移植後CMV感染症にはウイルス自体によるもの(網膜炎、腸炎など)と免疫病理学的機序によるもの(肺炎)の2つがあることが明かとなってきた。この免疫病理学的な発症機序を解明し、治療法を確立するのが本研究の目的である。申請者らはマウスのCMV (MCMV)を6週齢のBALB/cマウスに接種すると接種4週後にはウイルスは唾液腺にのみ存在するが、この時、抗CD3抗体をマウスに1回投与し宿主T細胞を活性化すると、抗体投与24-48時間後にマウスウイルスは存在しない肺の間質性肺炎で死亡ことを見いだし、これがCMW間質性肺炎、かつ免疫病理学的発症のモデルと考えた。これより、CMV間質性肺炎の成立にはウイルス感染により宿主免疫系が修飾されるinduction phaseと、免疫病理学的機序により間質性肺炎が発症するeffector phaseの2つからなることを報告した。平成7年度は肺がなぜ標的臓器となり、間質性肺炎になるのか、と言う点に焦点をしぼり研究を行ない、以下の研究結果を得た。 1.抗CD3抗体投与によりMCMV持続感染マウス肺ではサイトカイン(IL-2, IL-6, TNF-α, IFN-γ) mRNAの発現が非感染マウスに比べ亢進しており、かつこの亢進状態が非感染マウスより長時間に及んだ。 2.MCMV感染マウスに抗CD3抗体を投与した後、肺胞洗浄液を採取し、in vitroにて刺激したところ、非感染マウスのそれに比べ活性酸素の産生が有意に亢進していた。 3.抗CD3抗体投与24時間後のマウス血清中の一酸化窒素(NO^-_2とNO^-_3との和)を測定したところ、1400μM(正常非感染マウスでの血清中濃度;40-80μM)と非感染マウスに比べ著明に増加していた。 4.i-NO合成酵素(i-NOS)のmRNAの臓器毎の発現を調べたところ、肺でのみ発現が見られた。 5.i-NOSの誘導阻害剤と抗CD3抗体を同時に投与すると間質性肺病変は著明に改善した。 以上平成7年度の研究において、免疫病理学的機序によるCMV肺炎発症の直接因子としては一酸化窒素が考えられた。即ち、MCMV持続感染マウスでは抗CD3抗体刺激により、非感染マウスに比べより多量のサイトカインが産生され肺局所において大量の一酸化窒素を産生し、この一酸化窒素と活性酸素から強い炎症惹起物質として知られるperoxinitriteが産生され、肺間質に放出される結果、間質性肺炎が発症するものと考えられた。
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