研究概要 |
血管ステントは,PTA治療後の再狭窄の予防に,あるいは人工血管に装着して大動脈瘤内に挿入・固定する新しい治療手段として現在世界の血管外科分野の焦点となっている。われわれの研究は,温度によりその形状をコントロールできる特異な性状をもった材料である形状記憶樹脂に注目したものである。まず形状記憶樹脂のメッシュ円筒を作成し,体内で温度をあたえると広がる設定で細く畳んだ状態でカテーテル先端に装着する。動脈内へ末梢から挿入して,温度の高い生理的食塩水を注入して形状を変化させる。柔軟に変化するので,形状記憶合金のような剛体と異なり,血管壁の損傷の危険が少ないと考えられる。 われわれは,これまで主にポリノルボルネンを材料として研究を続けてきたが,PL法で恒久的に体内に残すについて問題が生じる可能性が出てきた。そこで,本研究ではポリウレタン系樹脂が生体適合性と抗血栓性に優れている点に着目し,ウレタン形状記憶樹脂(ニッショー総合研究所)について検討を行うこととした。強度,生体適合性,形状記憶性などについての試験を行い,まず強度について曲げ強度,引っ張り強度,応力緩和試験と経時的劣化を見た。生体適合性については,血液適合性で抗血栓性,組織親和性では炎症性と毒性について観察した。形状記憶性は設定した状況で意図した形状に戻るかを調べた。長期人体に埋め込む血管材料はPL法にかなったものでなければならず,経時的劣化,組織親和性,毒性,癌を誘発する可能性などについて長期の観察が必要である。したがって今回期間内に結論には至らなかったが,今後の血管外科治療の上で有力な手段となる可能性が示唆された。とくに既製の人工血管との組み合わせを工夫することにより,intervention治療の発展に寄与することも考えられ今後さらに研究が進められるであろう。
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