近年癌の浸潤、転移に癌細胞の接着性の喪失が深く関与していることが明らかとなってきた。本研究は、甲状腺乳頭癌において細胞接着性の喪失と病理組織所見、予後との関連があるかを細胞接着分子の発現の点から解明することを目的としている。 1981年から89年に当科で初回手術を施行した甲状腺乳頭癌症例444例に対し、今回新たに詳細な予後調査を行い、原病死9例、他病死13例、再発44例(追跡率95%)の結果を得た。そのうち60歳以上の高齢者症例62例を抽出し、その臨床病理学的所見と予後、再発様式との関連を検討した。用いた臨床的因子は年齢、性、腫瘍径、遠隔転移、リンパ節転移、手術法、局所浸潤で、病理学的因子は充実索状構造、扁平上皮化成、骨形成、多分枝乳頭構造、細胞巣状剥離、PCNAおよびP-53発現の有無である。Kaplan-Meier法により生存率を算定し、log-rank法により検定した。その結果再発に関与する因子は腫瘍径、リンパ節転移、局所浸潤、多分枝乳頭構造、細胞巣状剥離であり、生存に関与する因子は腫瘍径、局所浸潤、多分枝乳頭構造であった。このことより、多分枝乳頭構造や細胞巣状剥離の組織所見は癌細胞の増殖性や接着性を反映しており、細胞接着性の喪失によって浸潤や転移を誘発し不良な予後と関連してくることが想定された。現在細胞接着分子と組織学的所見の関連を調べているが、免疫組織化学的検討ではE-カドヘリン発現の喪失と、多分枝乳頭構造、細胞巣状剥離所見に相関性が見られている。
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