研究概要 |
各種モノクローナル抗体(A2B5,4F2,PKK-1,HISL-19)を用い、内分泌腫瘍および非内分泌腫瘍の免疫組織化学的、生化学的検討を行った。このうちA2B5,HISL-19は内分泌腫瘍に特異的に組織化学的に陽性所見を呈した。特に、HISL-19は、Formalin固定、Paraffin切片標本に応用でき、多くの研究成果が得られた。HISL-19を中心に研究結果を報告する。 【材料と方法】 1)組織化学的研究の材料と方法:材料は主に内分泌及び非内分泌腫瘍のformalin固定、paraffin切片標本。染色方法は、間接蛍光抗体法、またはSAB法を使用。 2)生化学的研究の材料と方法:材料は、手術時得られた標本を実験使用時まで凍結保存。標本約1gから蛋白を抽出。HISL-19抗原分子量検索にはWestern Blotting法を用いた。 3)免疫電顕法:材料は、formalin固定、paraffin切片標本に対し光顕的組織化学染色を施行し、陽性部位を選択し、電顕標本とした。組織化学的染色にはpre-embedding法を用い、鉛染色または未染色標本を検鏡した。 【結果】 1)組織化学的研究結果は、甲状腺腫瘍の中で髄様癌、副腎腫瘍の中では褐色細胞腫、膵腫瘍の中では膵内分泌腫瘍、消化管腫瘍の中のカルチノイド、胃内分泌細胞癌、胆嚢内分泌細胞癌対し特異的に陽性所見が得られ、非内分泌腫瘍は殆ど陰性であった。また、褐色細胞腫では良性に比べ、悪性褐色細胞腫で明らかに強陽性所見を得た。 2)Western blotting法の結果は、HISL-19陰性の乳頭癌、クッシング症候群に見られない共通の抗原蛋白と思われるバンドが42kDa付近に認められ、更に髄様癌のみに見られる抗原が55および65kDa付近に認められた。 3)免疫電顕法の結果、悪性内分泌腫瘍の甲状腺髄様癌において、細胞質内分泌顆粒にのみ陽性所見を得た。更に、この所見は核周囲に強く見られ、apical surfaceに向かって減少していく傾向を示した。 【まとめ】 HISL-19は、上述した神経内分泌腫瘍の特異的腫瘍マーカーとして有用性がある。更に、組織化学的に強陽性所見を呈した内分泌悪性腫瘍は、生化学的および免疫電顕的検討結果からHISL-19抗原となる新生蛋白の合成が、細胞質分泌顆粒内にて旺盛に行われていることが判明した。術前、HIS-19を応用したこれらの疾患の組織化学的診断は、悪性度の判定、予後の予測、切除範囲、リンパ節郭清を含めた術式の決定に有効と考えられた。
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