研究概要 |
乳癌培養細胞における糖鎖抗原の発現と、その制御機構を解析した。つぎに血管内皮細胞との接着実験を行い、関与する接着分子を同定した後、癌細胞自身あるいは宿主細胞との相互作用を介した、接着分子の発現の制御に関しても検討を加えた。また、癌細胞と血管内皮の接着の後に続くと考えられているインテグリンを介した細胞外マトリックスへの接着についても検討した。 乳癌細胞では高率にシアリルLewis^X抗原が発現しており、接着実験の結果から血管内皮細胞との接着においてE-セレクチンのリガンドとして機能していることが判明した。 乳癌細胞は直接および宿主のリンパ球から炎症性サイトカインを放出させ、血管内皮のE-セレクチンの発現を誘導した。また、乳癌組織において癌巣周囲の血管内皮にE-セレクチンの発現が認められ、進行再発患者の血清E-セレクチン濃度は上昇していた。 血管内皮で産生されるサイトカインであるHB-EGF,HGFを乳癌細胞に作用させるとインテグリンの発現が増強し、細胞外マトリックスへの接着性も亢進した。同様の変化は癌細胞と血管内皮細胞を共培養しても認められ、これは糖鎖-E-セレクチンを介する接着に続く第二段階の接着と考えられた。 乳癌細胞と血管内皮細胞の接着はシアリルLewis^X抗原とE-セレクチンを介しており、癌細胞には血管内皮のE-セレクチンを誘導する能力があることを実験的に証明できた。また、インテグリンによる第二段階の接着機構をある程度解明できた。
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