研究概要 |
食道癌における細胞増殖調節機構の異常を解析するために、食道癌細胞株および食道癌切除標本において、細胞周期調節因子である、癌抑制遺伝子p53,Rb、Cdk Inhibitor p21,p16、Cdk2,4,6、Cyclin A,D1,D2,D3,Eの発現をWestern BlottingおよびFlow Cytometryを用いて解析した。p53とp21の発現は、約70%の細胞株で認められたが、p16の発現は、数例の細胞株でのみ認められた。Rb蛋白の発現はすべての食道癌細胞株で認められたが、一部の細胞株においては、Rb蛋白のFast Migratig Form(Low Molecular Weight Form)の高レベルの発現が認められた。これは、非リン酸化型(活性型)のRb蛋白であり、細胞増殖を負に制御する機能を持つ。Cdk2,4,6は、ほとんどの細胞株において、ほぼ均一な発現が認められた。 リンパ球をコントロールとして用いたFlow Cytometryによる解析から、Cyclin A,D1,D3,Eの発現が23.1%(6/26),65.4%(17/26),15.4%(4/26),57.7%(15/26)の細胞株で認められた。すべての食道癌細胞株は、リンパ球に比較して低レベルのCyclin D2を発現しており、ほとんどの食道癌細胞株におけるCyclin D3の発現は、リンパ球と同等のレベルであった。Cyclin D1とEは、他のCyclinに比較して有意に高い発現が認められた。Cyclin D1とEは食道癌発生において、重要な役割を果たしていると考えられる。個々の細胞株によって異なるこれらの細胞周期調節因子の発現パターンは、それぞれの細胞株の生物学的性質の相違に関与しているものと考えられる。細胞周期のNegative Regulator p53、Rb、p21、p16と細胞周期のPositive Regulator Cyclin A,D1,D2,D3,Eの発現バランスが細胞の増殖能力を規定している可能性がある。
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