研究概要 |
転移の成立には細胞接着分子の関与が重要な因子であることが報告されつつあるが、本研究ではそのなかのひとつである細胞接着分子CD44 variant formの発現を大腸癌症例において検討した。 まず60例の大腸癌新鮮切除標本(うち肝転移例:13例)の癌巣及び正常大腸粘膜に対してRT-PCRおよびDNAシークエンスによる検討をおこなったところ、CD44 variant exon8,9,10(以下CD44 v8-10)が正常大腸粘膜に比して大腸癌巣において発現の増強が認められた。またCD44 v8-10のspecific probeを使用し、Northern blot analysisにて大腸癌巣のRNA発現量を同一症例の正常粘膜に対する比として算出し検討した。肝転移陽性例では2.79±0.95と肝転移陰性例の1.80±0.61に比して有意に高く、更に肝転移巣での発現は3.56±0.51と著しく高いことが明らかとなった。組織型、壁深達度、脈管侵襲、リンパ節転移とこれらの発現量との間には有意な相関は認められなかった。次に、この結果をふまえて同部位に対するモノクローナル抗体を作成し、大腸癌切除症例179例に対して、免疫組織化学染色をおこない、その発現について検討した。血行性転移を伴わない大腸癌においてCD44v8-10の発現は34.8%であったのに対して血行性転移を併発する症例では80.9%と、前述のNorthern blotと同様に陰性例に比して陽性例において有意に血行性転移の頻度が高いことが認められた。以上より、大腸癌においてCD44v8-10の発現の増加は血行性に深く関連している接着分子であることが示唆された。
|