1.肝癌の浸潤・転移と肝障害の関連についての実験的検討 4週齢以下の非肝障害呑竜ラットを用い、血行性転移能の強い腹水肝癌細胞(AH60C)を開腹下に門脈内に投与し、2、4週後に開腹して肝転移の個数、転移巣の病理学的所見について検討した。その結果腹水門脈内投与では肝転移は成立したが、その個数、状況に個体による著しい差が認められ現在まで一定の傾向が得られていない。 2.肝細胞癌の接着・浸潤における肝障害の影響に関する検討 肝細胞癌切除材料を用いて、腫瘍増殖因子であるepidermal growth factor(EGF)レセプター、細胞増殖能の指標としてのproliferating cell nuclear antigen(PCNA)、および細胞接着因子であるELAM、sialyl Lewis^X(SLeX)の免疫組織染色を施行し、腫瘍因子および併存肝病変との関連について検討した。その結果、PCNA染色では、腫瘍の組織学的分化度との関連を認め、また従来より我々が検討してきたAgNOR染色とも相関を認めた。AgNOR染色では、腫瘍の増殖能は肝硬変併存群が非併存群より平均で高い傾向を示し、興味深い成績が得られているが、PCNAでは傾向は認められなかった。今後さらに各種腫瘍因子との関連などについて、詳細に検討する予定である。SLeXについては腫瘍部は非腫瘍部に比べて染色性の減弱を認め、また血管侵襲を伴なう腫瘍は伴なわない腫瘍に比べて染色陽性率が低かった。また肝硬変非併存群が併存群に比べて染色性が減弱している傾向であった。肝細胞癌の進展と背景肝障害の程度との関連について興味深い成績であり、今後さらに詳細に検討する必要がある。EGFおよびELAMについては、明らかな傾向を得られていない。
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