1.肝癌の浸潤・転移と肝障害の関連についての実験的検討 呑竜ラットを用い、腹水肝癌細胞(AH60C)など複数の腫瘍細胞を開腹下に門脈内に投与し、開腹して肝転移の状況ついて検討したが、個体による著しい差が認められ客観的な評価は困難であった。 2.肝細胞癌の増殖、進展に及ぼす肝障害の影響に関する検討 肝細胞癌切除材料を用いて、細胞増殖能の指標としてのproliferating cell nuclear antigen(PCNA)および腫瘍増殖因子であるepidermal growth factor(EGF)レセプターの免疫組織染色を施行した。PCNA染色では、腫瘍の組織学的分化度との関連を認め、また従来より我々が検討してきたAgNOR染色とも相関を認めた。AgNOR染色では、腫瘍の増殖能は肝硬変非併存群が併存群より平均で高い傾向を示しており、肝障害との関連上興味深い結果であった。またEGFレセプターについては、細胞増殖能との比較において一定の傾向を認めなかった。 続いて細胞接着因子ICAM-1、およびSialyl Lewisx(SLex)の発現を検討した。ICAM-1は腫瘍の細胞膜上に約80%に発現したが、発現の有無と腫瘍の臨床病理学的所見には一定の傾向は認めず、腫瘍の増殖、進展との関係は明らかではなかった。SLexは腫瘍部では約70%の細胞膜に中等度以上の発現を認め、発現の軽度な群は、高度な群に比べて最大腫瘍径や血管侵襲が高度な傾向を認めた。非腫瘍部では約90%に高度の発現を認めたが、肝病変との関連は明らかではなかった。以上の検討から、肝癌の細胞増殖能や各種細胞接着因子と肝障害とはなんらかの関連のあることが示唆されたが、その傾向は因子によってさまざまであった。今後、分子生物学的手法などによる検討が必要と考えられる。
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