1.肝癌の浸潤・転移と肝障害の関連についての実験的検討 前年度の経緯から、複数の種類の腫瘍細胞を開腹下に門脈内に投入し、2、4週後に開腹して肝転移の個数、転移巣の病理学的所見を検索したが、前年度と同様に個体差が大きく、一定の傾向を認めなかった 2.肝細胞癌の接着・浸潤における肝障害の影響に関する検討 研究分担者とともに前年度にひきつずいて臨床検体を採取した。肝細胞癌切除材料を用いて、腫瘍部および非腫瘍部における細胞接着因子ICAM-1、ELAMの発現をABC法にて免疫染色し、その発現様式と腫瘍の病理学的因子および非腫瘍部の肝病変との関連について腫瘍の接着能の面から検討した。ELAMについては、染色性が弱くかつ材料による個体差やが大きく、一定の評価は困難であった。ICAM-1は腫瘍の細胞膜上に約80%に発現したが、発現の有無と腫瘍の臨床病理学的所見には一定の傾向は認めず、腫瘍の増殖、進展との関係は明らかではなかった。一方非腫瘍肝細胞ではほとんど発現を認めず、肝障害状況との関連についての検討は困難であった。さらにELAM-1のリガンドであるSialyl Lewisx (SLex)についても同様に検討した。その結果、腫瘍部では約70%の細胞膜に中等度以上の発現を認め、発現の軽度な群は、高度な群に比べて最大腫瘍径や血管侵襲が高度な傾向を認めた。非腫瘍部では約90%に高度の発現を認めたが、肝病変との関連は明らかではなかった。以上の検討から、各種細胞接着因子と肝細胞癌の増殖、進展とはなんらかの関連のあることが示唆されたが、その傾向は因子によってさまざまであった。また肝障害との関連については、免疫組織学的検討では明らかではなかった。今後、分子生物学的手法などによる検討が必要と考えられる。
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